俳句時評 岸本尚毅
朝刊歌壇俳壇面で月1回掲載している、俳人・岸本尚毅さんの「俳句時評」。今回は、模索を続ける若き俳人たちについて考えます。
〈橋に鳩(はと)マフラー貸してそれつきり〉〈売れ残る金魚のやうに夜を遊ぶ〉〈夜桜や遊具の上のおとなたち〉〈卒業の頃からずつと工事の駅〉〈僕ら残像白シャツを脱ぐ脱がす〉〈山焼く日つねの遠目のぬひぐるみ〉は、大塚凱『或(ある)』(ふらんす堂)から引いた。
返って来ないマフラー。売れ残った金魚。夜の遊具にいる「おとなたち」。卒業して何年経っても工事中の駅。「残像」となった「僕ら」。遠くを見るぬいぐるみの眼(め)。過ぎゆく青春を慈しむように詠む大塚は一九九五年生。
このような大塚の句を叙情で…